はじめに

さて、第3回は「塗料と〇〇フリー:自然環境編」として、主に環境汚染、そして巡り巡って人間への害が懸念され、フリーをうたわれる物質ベースの記事となります。
主な法令は、大気汚染防止法、海洋汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法PRTR法(化管法)などがメインとなります。

※当サイトの方針として事実ベースを心掛け、引用やリンクが多くなります。そのためやや読みにくいかもしれませんので、ご興味があるところだけ読んでいただければと思います。

VOC

VOCについては、塗料と〇〇フリー①屋内環境編でも詳細に触れましたので、「なぜ配合されるのか」は省略します。

主な規制・基準など

自然環境というテーマにおいてのVOC(揮発性有機化合物)は、塗料と溶剤の記事にも書いた通り、大気汚染防止法が主な規制となります。

化学物質を規制する法律の多くは、その対象をかなり具体的に定めています。
リストまたは厳格な定義があり、場合によってはそれに例外があり、という形で、
ある物質が法規制を受けるかどうかを確実に判定できます。

さて、大気汚染防止法におけるVOCとはなにか?
塗料と溶剤の記事と重複しますが、大気汚染防止法には下記のようにあります。

 第二条4項
 この法律において「揮発性有機化合物」とは、大気中に排出され、又は飛散した時に気体である有機化合物(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除く。)をいう。

つまり、大気中で気体となる有機化合物全てです。

もちろん、個別の物質の規制や調査対象については具体的な化学物質が指定されていますが、
単にVOC規制といったとき、いったい何が規制対象で規制対象でないのか、その境目の扱いが非常にわかりにくい法律です。

このあたりについては、塗料と溶剤の記事に詳しく書いていますので、そちらを参照ください。

なお一般的な有機溶剤については、かなり多くの部分が大気汚染防止法のVOC揮発性有機化合物にあてはまります。

何が有害か

VOCの環境への害は主に間接的なものです。
VOCは大気中で光化学オキシダント(光化学スモッグ)浮遊粒子状物質(SPM / PM2.5)の生成原因となります。
光化学オキシダントは目や呼吸器の粘膜を刺激し、高濃度では呼吸困難を引き起こします。
PM2.5は肺の深部に到達し、WHOによれば心血管疾患・呼吸器疾患・肺がんのリスク増加と関連しています。

もちろん個別のVOC物質(トルエン、キシレン、エチルベンゼンなど)にはそれぞれ固有の毒性がありますが、
それらは①屋内環境編のテーマですので、ここでは割愛します。

なぜ配合されるのか

鉛は、塗料原料としては非常に重要かつ一般的な物質でした。
塗料におけるその役割は3つあります。

1.サビ止め顔料として
鉛丹シアナミド鉛といった鉛化合物は、鉄鋼用のサビ止め顔料として絶大な効果を発揮しました。
その性能から、非常に広範に使用され、現存する構造物でも多く使用されています。

JIS規格においても、鉛化合物を主要素としたさび止め塗料は多く、
JIS K 5622 鉛丹さび止めペイント         (2010年廃止)
JIS K 5623 亜酸化鉛さび止めペイント       (2014年廃止)
JIS K 5624 塩基性クロム酸鉛さび止めペイント   (2010年廃止)
JIS K 5625 シアナミド鉛さび止めペイント     (2014年廃止)
JIS K 5628 鉛丹ジンククロメートさび止めペイント(2010年廃止)
JIS K 5629 鉛酸カルシウムさび止めペイント    (2016年廃止)

と、比較的最近まで規格が有効でしたが、記載の通り現在では廃止されています。

2.着色顔料として
鉛化合物には、着色顔料としても非常に優秀な特性を持っているものがあります。
黄鉛(硫酸クロム酸鉛(Ⅱ)、クロム酸鉛(Ⅱ) 、塩基性クロム酸鉛(Ⅱ) )
・モリブデートオレンジ、クロムバーミリオン(硫酸クロム酸鉛(Ⅱ)−モリブデン酸鉛(Ⅱ) )
といった顔料は、非常に鮮やかで、無機顔料であるため紫外線に当たっても色あせにくく、かつ高い隠ぺい力をほこります。さらに基本的に安価でした。
現代から見ても顔料そのものとしては完全な代替となる物質は多くなく、一部の高価な顔料を使用するか、あるいは塗料設計や添加剤の発展を含めた技術の向上により同等程度の性能が実現されています。

3.添加剤として
鉛化合物は、添加剤としても利用されてきました。
代表的なものは、ナフテン酸鉛、オクチル酸鉛などの油性塗料のドライヤーとしてです。
これらも現在ではコバルトやマンガン、ジルコニウムに代替されており、
さらに現代ではコバルトが代替えされる流れにあります。

何が有害か

鉛は神経毒性が特に深刻で、具体的には、
小児:知能指数(IQ)の低下、学習障害、注意欠陥、行動異常。低濃度でも不可逆的な神経発達障害を引き起こす
成人:腎臓障害(腎尿細管障害)、貧血(ヘモグロビン合成の阻害)、高血圧、末梢神経障害
生殖毒性:精子形成への悪影響、流産リスクの増加
といった健康被害が確認されています。

環境面では、鉛は生分解されず土壌や水系に半永久的に残留します。
食物連鎖を通じて生態系全体に蓄積し、水鳥の鉛中毒(鉛散弾や釣り用鉛錘の誤飲)なども知られています。
塗膜が劣化・剥離した際に微粒子として環境中に放出されるのが、塗料における鉛汚染の主なルートです。

主な規制・基準など

主に以下の2つの規制があります。

1.水質汚濁防止法・土壌汚染対策法
鉛およびその化合物は、水質汚濁防止法施行令第2条の「有害物質」、
土壌汚染対策法施行令第1条の「特定有害物質(第二種:重金属等)」に指定されています。
排水基準は鉛 0.1mg/L以下、環境基準(公共用水域や地下水)は0.01mg/L以下です。
雨水などで塗膜から鉛が溶け出し、河川や地下水、土壌を汚染し、食物連鎖を通じて生態系に蓄積することを防ぐため、これらの基準が定められています。

2.PRTR法(化管法)
鉛及びその化合物は第一種指定化学物質です。
年間取扱量1トン以上の事業者は、環境への排出量・移動量を把握し、届け出る義務があります。
塗料製造において鉛系顔料を使用する場合はもちろん、鉛含有塗料を大量に扱う塗装事業者も対象となり得ます。

業界の自主的取組み

日本塗料工業会(日塗工)は、2007年から「鉛フリー化への自主的取組み」を開始し、
段階的に鉛含有塗料の削減を推進してきました。
自主目標として塗膜中の全鉛濃度600ppm以下(乾燥塗膜重量基準)を掲げており、
この数値は国連環境計画(UNEP)の「鉛含有塗料廃絶のための世界同盟」の推奨値にも対応しています。

参考:日本塗料工業会「塗料からの鉛フリー化について」(PDF)

深堀り① 塗替え時の鉛問題

新規に鉛含有塗料を使う場面は減りましたが、問題はむしろ過去に塗られた鉛含有塗膜の塗替え・除去にあります。
古い橋梁や鉄骨構造物には鉛丹さび止めや塩基性クロム酸鉛さび止めが大量に残存しており、塗替え時のブラスト処理やケレン作業で鉛含有粉塵が飛散します。

剥離した塗膜くず(ブラスト廃材)は、鉛含有量によっては
廃棄物処理法上の特別管理産業廃棄物に該当する可能性があり、適正処理が必要です。
また作業者保護の観点からは鉛中毒予防規則により、鉛作業主任者の選任や特殊健康診断が義務付けられています。

つまり、「鉛フリー塗料を使う」だけでなく、「過去の鉛含有塗膜をどう安全に処理するか」が、
現在進行形の課題として残っています。

深堀り② 実は顔料として使用されている話

さて、業界的な動きもあり、2026年現在では鉛が含まれる塗料は激減しています。鉛顔料を含む塗料を目にすることはほぼないでしょう。

しかし現代でも、ある分野では鉛を含む顔料というものが現役で使用されています。

それは、絵の具です。

代表的なのが鉛白(シルバーホワイト / フレークホワイト)で、塩基性炭酸鉛を主成分とする白色顔料です。かつておしろいとして使われていた有毒な物質として、時代物の創作物などでもたびたび出てくる有名なものです。
油彩画では独特のしっとりした質感と乾燥の速さから、チタニウムホワイトやジンクホワイトでは代替しきれないとして今でも現役です。またネープルスイエロー(アンチモン酸鉛)も鉛化合物の顔料で、画材としては現行品です。

六価クロム

なぜ配合されるのか

六価クロム化合物は、塗料においては主に2つの用途で使われてきました。

1.サビ止め顔料として
ジンククロメート(クロム酸亜鉛)は、特にアルミニウム合金に対して優れた防食効果を発揮します。
六価クロムの強い酸化力による不動態化効果がその理由で、
航空機や車両の軽金属部材のさび止めに広く使用されてきました。
JIS規格としてはかつてJIS K 5625(ジンククロメートさび止めペイント)が存在しましたが、2008年に廃止されています。

なお、先に「鉛」の項で挙げた
JIS K 5624 塩基性クロム酸鉛さび止めペイント
JIS K 5628 鉛丹ジンククロメートさび止めペイント
などは、鉛と六価クロムの両方を含む、ダブルで「フリー」の対象となる塗料です。

2.着色顔料として
上の鉛の項でも触れた黄鉛(クロムイエロー)やモリブデートオレンジは、
六価クロム化合物でもあります。鉛と六価クロムの両方を含む顔料です。
道路標識用塗料(黄色)などに長く使われてきましたが、
現在では複合酸化物顔料(CICP)のチタンイエロー等や有機顔料への代替が進んでいます。

どの程度一般的だったかというと、PRTR制度の開始時(平成12年度)に経済産業省が作成した
非点源推計のための塗料標準組成表(PDF)を見ると、多数の塗料種別に黄鉛(クロム酸鉛)ジンククロメート(クロム酸亜鉛)が含有成分として記載されています。
平成12年の時点では、六価クロム化合物は塗料においてごく一般的に使われていました

何が有害か

六価クロムはヒトに対する発がん性が確認された物質です。
国際がん研究機関(IARCは六価クロム化合物をグループ1(ヒトに対して発がん性がある)に分類しています。
※海外サイトなので英語ですが、検索窓にChromiumと入れると「Chromium (VI) compounds(六価クロム化合物)」が出てきます。

主な標的はで、六価クロムを取り扱う労働者における肺がんリスクの増加が疫学的に確認されています。また鼻腔・副鼻腔がんのリスクも増加します。

がん以外にも、
皮膚潰瘍(クロム潰瘍):皮膚に付着すると組織を腐食し、治りにくい潰瘍を形成する
アレルギー性接触皮膚炎:セメントに含まれる六価クロムによる「セメント皮膚炎」が有名
鼻中隔穿孔:粉塵を長期間吸入すると鼻中隔(鼻の仕切り)に穴が開く
腎障害
といった障害が知られています。
労働者保護という面でも、特定化学物質障害予防規則(特化則)により厳格なばく露管理が求められます。

主な規制・基準など

1.水質汚濁防止法・土壌汚染対策法
六価クロム化合物は有害物質(特定有害物質)に指定されています。
排水基準は六価クロム 0.5mg/L以下、環境基準(公共用水域)は0.05mg/L以下です。
土壌汚染対策法でも第二種特定有害物質として溶出量基準・含有量基準が定められています。

2.PRTR法(化管法)
六価クロム化合物は特定第一種指定化学物質(発がん性による指定)です。
通常の第一種が年間取扱量1トン以上で届出義務となるのに対し、
特定第一種は0.5トン以上で届出義務が生じます。より厳しい扱いです。

3.RoHS指令・ELV指令(海外規制)
EUのRoHS指令は、労働環境面と自然環境面のどちらともいえる規制ですが、電気・電子機器中の六価クロム含有量を1000ppm以下に制限しています。
塗装皮膜も対象であり、防錆処理のクロメート皮膜も規制されます。
自動車分野ではELV指令(使用済み自動車指令)でも、ボルト・ナットのクロメート処理を含めた六価クロムの使用が2007年以降禁止されています。

深堀り① クロメート処理と代替技術

塗料そのものだけでなく、塗装前の金属表面処理(クロメート処理)も六価クロムの主要な使用場面です。
クロメート皮膜は安価で優れた防食性を持つため、ノンクロメート処理(ジルコニウム系、チタニウム系化成処理)への切り替えが進められているものの、金属処理としてはまだ現役の仕様です。

さび止め塗料としては、JIS K 5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)が代替規格として2003年に制定されました。また、JIS K 5621(一般用さび止めペイント)でも、品質には記載されていないものの、定義として「さび止め顔料に鉛系及びクロム系成分を使用しないで」と明記されています。
これらはリン酸亜鉛系などの防錆顔料を使用し、鉛とクロムのフリーを実現しています。

深堀り② 顔料として使用されている話 鉛クロム以外も。

鉛の項でも書きましたが、塗料では廃されていても絵具としてはクロムイエロー(クロム酸鉛)は現役です。
工業用塗料では有害性から廃止された顔料が絵具の世界ではいまだに普通に使われている、という例は少なくなく、
カドミウムイエロー / カドミウムレッド : カドミウム化合物
バーミリオン(朱):硫化水銀
などがあります。

三価クロム・クロム全般

六価クロムの話をしたので、三価クロム(Cr³⁺)およびクロム全般についても触れておきます。
六価クロムと三価クロムは同じ「クロム」でも有害性がまったく異なるため、区別が重要です。

六価と三価の違い

六価クロム(Cr⁶⁺):強い酸化力を持ち、発がん性が確認されている。上の項で述べた通り規制が厳しい
三価クロム(Cr³⁺):比較的安定で、六価クロムのような強い酸化力は持たない。毒性は六価よりはるかに低い

塗料・表面処理の世界では、六価クロメート処理の代替として三価クロメート処理が広く採用されています。
「クロムフリー」とは文脈により、「六価クロムフリー」と「クロムフリー」が使い分けられるので注意が必要です。
三価クロムを使った処理は「クロムフリー」と呼ぶことがあります。

顔料としての三価クロム

三価クロムの代表的な顔料は酸化クロム(III)(Cr₂O₃)です。
いわゆるクロムオキサイドグリーンで、非常に安定な暗緑色の無機顔料です。
耐候性・耐熱性・耐薬品性に優れ、塗料では迷彩色などに使われています。
絵具の世界ではこれを水和させたビリジアンが有名です。

三価クロム化合物は六価クロムほどの規制は受けていないものの、PRTR法ではクロム及び三価クロム化合物も第一種指定化学物質(政令番号87号、六価とは別枠)です。
完全に無害というわけではなく、取り扱い時の管理は必要です。

横道:複合酸化物顔料(CICP)

複合酸化物顔料(CICP:Complex Inorganic Color Pigments)というものがあります。

複数の金属酸化物を高温で焼成し、安定な結晶構造を形成したもので、焼成顔料ともいわれ、鮮やかな色や隠ぺい力をもちながらも、無機顔料ならではの耐候性・耐熱性・耐薬品性を持ちます。

代表的なものに:
チタンイエロー(TiO₂-NiO-Sb₂O₃系など) — クロムイエローの代替
コバルトブルー(CoAl₂O₄、スピネル型) — 古典的だがCICPの一種
銅クロムブラック(Cu-Cr系スピネル) — 漆黒の耐熱黒色顔料
などがあります。

鮮やかさと耐候性を兼ね備えているため、工業用塗料では普及が進んでいます。

さて、ここで疑問が湧いてきます。
なぜ複合酸化物顔料なら問題ないのか?

複合酸化物顔料には、コバルト、ニッケル、アンチモン、クロム(三価)など、単体では有害性が指摘される元素が含まる製品も多くあります。
これらの元素はPRTR法の第一種指定化学物質であり、複合酸化物顔料を製造・取り扱う事業者はPRTRの届出対象になり得ます。

だというのに、なぜ複合酸化物顔料が「安全な代替」として扱われるのか。
複合酸化物顔料は1000℃前後の高温で焼成されることで、
構成元素がスピネル型やルチル型の結晶格子に強固に組み込まれます。
この結晶構造は化学的に非常に安定であり、
酸・アルカリ・溶剤に対してもほとんど溶出しません。
つまり「その元素が含まれていること」と「その元素が溶出して有害性を発揮すること」は別問題であり、複合酸化物顔料については場合は後者のリスクが極めて低い、というのが安全性の根拠です。

たとえば銅クロムブラックには三価クロムが含まれていますが、焼成後のスピネル結晶からクロムが溶出する量は微量であり、六価クロム顔料のように環境中でクロムが遊離するリスクとは根本的に異なります。

法規制上の扱い

とはいえ、法規制上は「元素として含有していれば対象」となる場面があります。

・PRTR法:構成元素(コバルト、ニッケル、アンチモン、クロム等)の含有量ベースで届出対象になり得る。焼成顔料であっても免除されない
・労働安全衛生法:製造・取扱い時の粉塵ばく露管理は通常の無機顔料と同様に必要

つまり、「有害元素を含むが、その元素が安定な結晶構造に閉じ込められているため
環境への溶出リスクは低い。ただし法規制上は含有元素ベースで一定の管理が求められる」

というのが複合酸化物顔料の立ち位置です。
完全に規制フリーというわけではないものの、鉛・カドミウム・六価クロム顔料と比較すれば環境リスクは大幅に低減されています。

カドミウム

なぜ配合されるのか

カドミウムは、塗料においては主に着色顔料として使われてきました。

カドミウムイエロー(硫化カドミウム CdS)
カドミウムレッド(硫セレン化カドミウム CdS・CdSe)
カドミウムオレンジ(黄と赤の中間組成)

これらは非常に鮮やかな色彩と高い隠蔽力を持ち、さらに耐熱性に優れており、かつては工業用塗料やプラスチック着色に使用されていました。

何が有害か

カドミウムの有害性は、四大公害病にも数えられるイタイイタイ病(富山県神通川流域、1910年代〜)によって広く示されました。
鉱山排水に含まれるカドミウムが稲作を通じて住民に蓄積し、腎尿細管障害骨軟化症を引き起こした事件です。
骨が極度にもろくなり、咳やくしゃみでも骨折するといわれ、「イタイイタイ」という病名は患者の訴えそのものです。

国際がん研究機関(IARC)はカドミウム及びカドミウム化合物をグループ1(ヒトに対して発がん性がある)に分類しており、主な標的臓器はです。吸入ばく露による肺がんリスクの増加が疫学的に示されています。
※海外サイトなので英語ですが、検索窓にCadmiumと入れると「Cadmium and cadmium compounds(カドミウム及びカドミウム化合物)」が出てきます。
また、腎臓への蓄積による慢性腎障害は低濃度でも長期ばく露で発症し得るため、現在の環境基準は鉛よりさらに厳しい値が設定されています。

主な規制・基準など

1.水質汚濁防止法・土壌汚染対策法
カドミウム及びその化合物は有害物質(特定有害物質)に指定されています。
排水基準は0.03mg/L以下(2014年に従来の0.1mg/Lから強化)。
環境基準(公共用水域)は0.003mg/L以下(2011年に従来の0.01mg/Lから強化)。
いずれも近年になって基準値が厳格化されており、カドミウムへの規制強化の姿勢が見えます。

上で触れた通り、現在の厳しい基準値はイタイイタイ病の教訓に基づいています。
なお、カドミウムの排水基準・環境基準はいずれも近年になって更に厳格化されており、
規制強化の姿勢が続いていることがわかります。
参考資料:環境省 カドミウムに関する物質情報

2.PRTR法(化管法)
カドミウム及びその化合物は特定第一種指定化学物質(発がん性)に該当します。
六価クロムと同じく、年間取扱量0.5トン以上で届出義務が生じます。

3.RoHS指令(海外規制)
RoHS指令ではカドミウムの含有基準が他の物質より厳しく、100ppm(0.01重量%)以下です。
鉛や六価クロムの1000ppmと比較して10倍厳しい基準であり、カドミウムに対する警戒の度合いがうかがえます。

現在の塗料での使用状況

一般塗料ではほぼ全廃されています。
クロムの項でも触れた複合酸化物顔料でも、Cdを含むものは無かったかと思います。
そのため、塗料のSDSで「カドミウム」の文字を見ることはまずありません。

ただし、無機で耐候性も耐熱性が高い鮮やかな赤顔料は、複合酸化物顔料を含めてもおそらく完全な代替はできていません。
一般に見る事はありませんが、一部特殊用途では使用が継続されているかもしれません。

有機スズ

なぜ配合されるのか

有機スズ化合物と塗料の関係には、大きく2つの顔があります。

1.船底防汚塗料として(TBT、TPT)
TBT(トリブチルスズ)TPT(トリフェニルスズ)系化合物は、1960年代以降、船底に貝類や藻類が付着するのを防ぐ防汚塗料として世界的に普及しました。
効果は絶大で、船舶の燃費改善にも大きく貢献しました。

しかし1970年代に、TBTが海洋生態系に深刻な影響を及ぼすことが判明します。
特に巻貝の一種イボニシインポセックス(メスの雄性化)を引き起こすことが確認され、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)の代表例として社会問題化しました。

2.硬化触媒として(DBT等)
ジブチルスズジラウレートジブチルスズジアセテートなどの有機スズ化合物は、シリコーン塗料などの縮合反応触媒として使用されてきました。
TBTとは異なり、これらのDBT系触媒は現在も国内で使用されている現行品です。
免疫毒性等の懸念から海外では規制が強化傾向にあり、代替の流れが進んでいます。

何が有害か

有機スズ化合物の有害性は、その種類によって大きく異なります。

TBT(トリブチルスズ)は、極めて低い濃度で海洋生物に影響を及ぼします。
最も有名なのが巻貝類のインポセックス(メスの雄性化)で、イボニシなどの巻貝がng/L(兆分の1グラム)レベルのTBTで生殖異常を起こします。
これは内分泌かく乱物質(環境ホルモン)の代表例として挙げられるものです。

DBT(ジブチルスズ)はTBTほどの急性毒性はないものの、
免疫毒性(胸腺萎縮による免疫機能低下)や皮膚刺激性が懸念されています。
EUではREACH規制で一般消費者向け製品中のDBT含有量が制限されていますが、
日本国内ではDBTに対する法的な使用制限は設けられていません。

主な規制・基準など

1.化審法
TBT(トリブチルスズ)化合物及びTPT(トリフェニルスズ化合物)は第一種特定化学物質に指定されており、製造・輸入が原則禁止です。
日本では1990年に第二種特定化学物質に指定され船底防汚塗料への使用が実質禁止となり、その後ストックホルム条約(POPs条約)附属書A収載を受けて第一種に格上げされました。

2.AFS条約(IMO)
国際海事機関(IMO)の「船舶の有害な防汚方法の規制に関する国際条約」(AFS条約)
2001年に採択、2008年に発効しました。
2003年1月1日以降は有機スズ系防汚塗料の新規塗装が禁止、2008年1月1日以降は船体表面の有機スズ系防汚塗料を表面から除去(又は防止コーティング)、という段階的な規制です。
日本は2003年に「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」を改正して国内対応しています。

深堀り DBT触媒の代替

DBT触媒の代替としてビスマス系触媒、ジルコニウム系触媒、亜鉛系触媒への切り替えが進んでいます。
ただし、日本国内ではDBT系触媒に対してあまり厳しい規制はなく、ジブチルスズジラウレートやジブチルスズジアセテートは現行品として流通しています。

APEO(アルキルフェノールエトキシレート)

なぜ配合されるのか

何が有害か

APEO自体が直接的に有害というよりも、問題は環境中での分解生成物にあります。
APEOが水環境中で分解されると、ノニルフェノール(NP)オクチルフェノール(OP)が生じます。
これらは内分泌かく乱物質(環境ホルモン)であり、エストロゲン(女性ホルモン)様の作用を持つことが確認されています。

具体的には、
魚類のメス化:雄の魚にビテロジェニン(本来メスのみが産生する卵黄タンパク質)が誘導される
生殖機能への影響:精巣の発達阻害、産卵数の減少
といった影響が、河川や下水処理場の放流水を受ける水域で観察されています。

主な規制・基準など

1.PRTR法(化管法)
分解生成物のノニルフェノール(NP)は第一種指定化学物質です。
APEO(NPEO)自体は直接のPRTR対象ではありませんが、分解してNPが生じるため、実質的に管理が求められます。

深堀り APEOフリーの塗料って?

塗料製品で「APEOフリー」とはあまり聞きません。

どちらかと言えば、塗料添加剤の分野で耳にする言葉です。
塗料メーカーが製品をAPEOフリーにしたいからこそ、APEOフリーの添加剤が開発されるのだとは思いますが。
わざわざ塗料製品で名乗ることがないのは、少々不思議な気がします。

PFAS(有機フッ素化合物)

PFASについては、当サイトの塗料とフッ素の記事でPFASの定義(OECD定義・EPA定義の違い)、国内規制動向、フッ素樹脂塗料がPFASにあたるかの検討、定義上の回避可能性の考察まで詳しく書いていますので、そちらを参照ください。

何が有害か

PFASの有害性は、物質によって大きく異なります。
まず、現在最も問題視されている特定PFASとでもいうべき範囲について。

2023年11月、国際がん研究機関(IARC)は
PFOAグループ1(ヒトに対して発がん性がある)
PFOSグループ2B(ヒトに対して発がん性の可能性がある)
に分類しました。PFOAについては腎細胞がん精巣がんのリスク増加に十分な証拠があるとされています。

一方、PFAS全般でいえば、特定の害があるというわけではありません。
しかし共通する特性として、炭素−フッ素結合(C-F結合)が自然環境下でほとんど分解されない点があります。
これが「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれる所以であり、一度環境中に放出されると地下水や土壌に半永久的に残留します。
現時点では害が確認できなくても、将来的に害が判明した時に除去や分解が困難である、という視点があります。

主な規制・基準など

国内の規制状況は塗料とフッ素記事に詳しいため、要点のみ記載します。

1.ストックホルム条約(POPs条約)・化審法
PFOS(2009年/2010年指定)、PFOA(2019年/2021年指定)、PFHxS(2022年/2024年指定)と、
段階的に特定PFASが規制対象に追加されています。
さらに2025年1月施行で長鎖PFCA(PFOA関連物質)を含む138物質が化審法の第一種特定化学物質に追加されました。

2.水質関連
2020年、水道水・地下水のPFOS及びPFOAの暫定目標値(合算で50ng/L)が設定されています。
各地で地下水汚染が報道されているのは、この基準に基づく調査の結果です。

これらはいずれも害が確認されたPFASやその周辺物質に対する規制であり、PFAS規制ではないことに注意が必要です。

深堀り PFAS全体の海外規制について

これについても、塗料とフッ素の記事でも触れましたが、日本では「PFAS全体を規制せよ」という声は今のところ非常に小さいと思いますが、海外の包括規制に関するニュースなどはよく目に入ってきます。PFAS全体のREACH制限だとか、そういう話題です。

そして海外でも包括規制が行われれば、原料供給・輸出製品・グローバルサプライチェーンを通じて日本の塗料にも影響するでしょう。

おわりに

今回は「〇〇フリー 自然環境編」として、
VOC、鉛、六価クロム、カドミウム、有機スズ、APEO、PFASを取り上げました。

自然環境編では、環境汚染など有害性が社会的な事件となったパターンが目立ちます。
屋内環境編や作業環境編も同じ傾向はありますが、自然環境については規制も非常に広範にわたるため、特に顕著です。

塗料に限らず、アスベストでもPCBでも水銀でもフロンでも農薬でも、
かつては夢の物質とも言われたような化合物が、公害や環境問題が顕在化して姿を消す。
化学物質規制の背景には、常に利便と犠牲の繰り返しの歴史が横たわっています。

免責事項

この記事は記者の調査または経験に基づき、その内容には正確を期しておりますが、
情報として判断を行う場合は、必ずリンクした各法令及び信頼できるソースを確認してください。
また、「これ間違ってない?」「これも〇〇フリーと言われるよ」といったことがあれば、
お気軽にお問い合わせフォームからご指摘ください。

公開日 2026/04/19
最終更新2026/04/19