概要

JASS18 M-109は「変性エポキシ樹脂プライマー」についての規格です。

JASSの塗料規格は種類と品質、試験方法などを規定しているもので、用途について冒頭に明示していません。
規格名そのもので判断するか、塗装仕様を確認して、それぞれの用途などを把握することになります。
また、品質や試験内容を読むことでも類推は可能です。
JASS18 M-109も名前のみでは判断できませんが、塗装仕様を確認すると、金属下地用の、いわゆる錆止め塗料の規格とわかります。

2025年9月時点の最新は建築工事標準仕様書・同解説 JASS18 塗装工事 第8版(2013)であり、詳細な規格の内容は下記をご確認ください。
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種類と主な違い

JASS18 M-109 変性エポキシ樹脂プライマー(変性エポキシ樹脂プライマーおよび弱溶剤系変性エポキシ樹脂プライマー)の種類は二つあります。

変性エポキシ樹脂プライマー
・弱溶剤系変性エポキシ樹脂プライマー

くどいですね、すみません。
違いも見ての通り、通常品と弱溶剤系という違いになります。

なお当サイトの検索ではこの二種類を区別しておらず、また水性の相当品等も掲載しています。

品質

この規格は、次の表のように品質を規定しています。
下記は規格より抜粋・変形し引用

項目 内容
容器の中の状態 主剤・硬化剤ともかき混ぜたとき,堅い塊がなく一様になるものとする.
乾燥時間(h) 16以内.
塗膜の外観 塗膜の外観が正常であるものとする.
ポットライフ 5時間で使用できるものとする.
耐衝撃性 衝撃による変形で,塗膜に割れ,はがれができないものとする.
上塗り適合性 上塗りに支障があってはならない.
耐塩水性 塩化ナトリウム溶液に浸しても異常があってはならない.

塗料の種類などについて特に定めた文章はない場合も、試験項目を見ることで
・主材・硬化剤と明記があり、ポットライフがあることから、2液(多液)の塗料
・耐塩水性があることから、錆止め塗料
と類推することができます。後者はちょっと証拠としては弱いですが。

主な製品

JASS18 M-109 に該当する主な製品は下記の通りです。

- 塗料データベース内検索

メーカー 品名
スズカファイン さびストップ
ワイドラスノンEPO
ワイドさびストップ
ワイドさびストップCOOL
大同塗料 サビタイト
サビタイトマイルド
大日本塗料 エポオールワイド
日本ペイント ハイポン20ファイン
ハイポンファインプライマーⅡ
ハイポン20ZNⅡ(新)
1液ハイポンファインデクロ
エスパーワンエース
オーデハイポンプライマー
1液水性デクロ
パーフェクトプライマー
ハイポン 20 デクロ
ハイポン 20 デクロW
エスケー化研 ミラクボーセイM
スーパーボーセイエポ
SKマイルドボーセイ
関西ペイント エスコST
エスコNBマイルドK
スーパーザウルスII
菊水化学工業 キクスイDPMプライマーM
キクスイ SPプライマーエポ
キクスイSPパワーエポ
キクスイ サビストマイルド
神東塗料 ネオゴーセーマイルド下塗

塗装仕様

JASS18 M-109が必要とされる場面の主なものに、公共建築工事標準仕様書(建築工事編)および 公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)があります。
詳細は以下の仕様書を参照ください。直接該当ページへとリンクしています。

また、当然ながらJASSの下記塗装仕様にも、JASS18 M-109が記載されています。

  • 3節 金属系素地面塗装
    SOP、FE、2-UE、LS2-UE、A-ASE、LS2-ASE、2-FUE、LS2-FUE

これは、金属系素地面塗装のEP-G以外全てです。

ただし、すべてJASS18 M-109を必ず使用するものではなく、
例えば金属系素地面塗装のSOP(合成樹脂調合ペイント塗り)では、
A種B種は下塗りにJIS K 5674 1種
C種D種は下塗りにJASS18 M-109
を使用します。

塗装仕様によって細かく違いますので、詳細は冒頭で紹介した冊子をご確認ください。

余談:弱溶剤系と……?

種類のところで述べましたが、この規格は2種類あります。

変性エポキシ樹脂プライマー
・弱溶剤系変性エポキシ樹脂プライマー

「弱溶剤系」は、JASS18に定義がありますので以下に引用します。
弱溶剤系塗料:労働安全衛生法に基づく有機溶剤中毒予防規則に区分される第3種有機溶剤等を溶媒の主成分とした塗料
JASSにおいてはこの定義と考えて差し支えありません。

さて、ここで疑問が出てきます。
もう片方の変性エポキシ樹脂プライマーは何系でしょうか?

文脈からすれば当然、溶剤系(強溶剤系)でしょう。
そして、実際の製品も適合品はすべて弱溶剤系溶剤系(強溶剤系)です。

しかし、規格の内部に、そうであると明示されていません
規格等の決め事において、定義や分類などが明示されていない以上は、矛盾のない範囲で選択が可能です。

例えば、水性の変性エポキシ樹脂プライマーはどうでしょうか。
あるいは、アルコール系の変性エポキシ樹脂プライマーはどうでしょうか。
また、灯油(有機則対象外)ベースの変性エポキシ樹脂プライマーはどうでしょうか。
いずれも、上記の弱溶剤系塗料の定義には当たらず、樹脂を溶解できる可能性があります。

しかし、そこに品質の試験方法が立ちふさがります。
試験片の作成について、
「製造業者が指定するシンナーを用いて(中略)シンナーの量を調整する」
と決められています。
水をシンナーと呼ぶことは不可能ではないですが一般的とは言い難く、水で希釈する塗料をこの規格に適合させるのは難しそうです。
水系ベースでアルコールをシンナーとすれば可能かもしれませんが、それはもうアルコール系で良さそうです。

一方、アルコール系灯油ベースは特に否定する文面は見当たらなかったため、この規格に適合できる可能性がありそうです。

ただし、弱溶剤系塗料の定義が「第3種有機溶剤等を溶媒の主成分とした塗料」とあり、有機則では第3種有機溶剤が5%以上含まれる液体は第3種有機溶剤等とみなされるため、弱溶剤系塗料にしないためには、第3種有機溶剤や第2種有機溶剤以外の、単体の炭化水素系溶剤等を添加して調整する必要があります。

仮に「灯油系変性エポキシ樹脂プライマー等を開発し、この規格に適合した場合、その使用が有機則から外れるなどのメリットがあります。
ただし、その後の工程で有機則に定められた塗料を使えば意味がありませんので、労多くして功少なし、といったところでしょうか。

なお溶剤として一般的なメタノールやIPA、ブタノールなどはそもそも第2種有機溶剤であるため、アルコール系アルコールシンナーを使う水系は、労多くして功なし、です。残念。

免責事項

この記事は記者の調査または経験に基づき、その内容には正確を期しておりますが、
購入や採用などの判断を行う場合は、必ず各規格書及び塗装仕様書の原本を確認し、必要に応じてメーカーに確認してください。
また、「ここ間違ってるよ」「このような塗装仕様でも使うよ」といったことがあれば、
お気軽にお問い合わせフォームからご指摘ください。