概要

JASS18 M-307は「木材保護塗料」についての規格です。

JASSの塗料規格は種類と品質、試験方法などを規定しているもので、用途について規格冒頭に明示していません。
規格名そのもので判断するか、塗装仕様を確認して、それぞれの用途などを把握することになります。
JASS18 M-307は規格名の通り、木材を保護する塗料の規格です。

ただし、一般的な意味での木材を保護する塗料であれば、JASS18の中にも他に仕様や塗料が存在します。
品質から推測するに、主に外部で用いる塗料であることから、この規格における保護は、紫外線からの保護を指すのではないかと思われます。
また品質に定められてはいませんが、この規格に適合する製品は防腐防虫性能を付与したものが多く、実態として他の木部塗装仕様とは違った保護をする塗料とみることもできます。

2025年9月(記事作成)時点の最新は建築工事標準仕様書・同解説 JASS18 塗装工事 第8版(2013)であり、詳細な規格の内容は下記をご確認ください。
- 建築工事標準仕様書・同解説 JASS18 塗装工事 第8版(2013) (日本建築学会)
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種類と主な違い

JASS18 M-307 木材保護塗料の種類は一つのみです。
しかし、塗装種別は公共工事建築仕様書やJASS18で塗り回数や塗布量の異なる塗装仕様が存在し、どの塗装仕様で規格試験を実施したかの差がある場合があります。
詳しくは後述します。

品質

この規格は、次の表のように品質を規定しています。
下記は規格より抜粋・変形し引用します。

項目 内容
容器の中での状態 かき混ぜたとき,堅い塊がなく一様になるものとする.
塗装作業性 塗装作業に支障があってはならない.
乾燥時間(h) 16以内
塗膜の外観 塗膜の外観が正常であるものとする.
促進耐候性 480時間の照射で,ふくれ,割れ,はがれがなく,色の変化の程度が見本品に比べて大きくないものとする.
かび抵抗性 試験体の接種した部分に菌糸の発育が認められないこと

上四つの項目は、JASS18規格の多くの塗料に共通しています。

促進耐候性は、外部に用いる上塗り塗料で一般的な項目ですが、この規格では実際に木(スギの柾目板)を使用することが規定されています。

そして、JASS18規格の中でこの規格に特有なのが、2013年の改定で追加された項目であるかび抵抗性です。
かび抵抗性試験自体は、居住用の屋内外向け塗料のカタログでは目にする比較的ポピュラーな試験ではあるものの、私の知る限り特定の規格には入っておらず、各メーカーが自主的に性能証明として実施している形になります。
試験方法も一般的な塗料のJIS試験規格(JIS K 5600)にはなく、JIS Z 2911 かび抵抗性試験方法を準用することが一般的で、JASS18 M-307についてもこの規格を参照しています。
 一般的な塗料では、実際の塗装対象での試験が難しかったり多岐にわたったりするため、塗料を塗装したもの(紙やガーゼやフィルム)、またはフリー塗膜を試験体とすることが考えられますが、JASS18 M-307かび抵抗性試験では、JIS K 1571 木材保存剤−性能基準及びその試験方法を参照し、実際に木材片に塗装して試験を実施するのが大きな特徴です。

 ところで、何故かび抵抗性だけ「.」で締めなかったのでしょうか。
 

主な製品

JASS18 M-307に該当する主な製品は下記の通りです。

- 塗料データベース内検索

メーカー 品名
ケミプロ化成 油性アリシスステイン
三商 サンクラシーMSY-323 下塗り
サンクラシーMSY-323 上塗り
シオン U-OIL スーパーハード
木守り専科WEATHER Protect
住友林業 S-100
トーヨーマテリア セトールHLSe
セトールFilter7プラス
ニッペホームプロダクツ 油性木部保護塗料ステインガード
水性ウッディリコート
日本マテリエイド ウッドエイドナチュレ
ウッドエイドカラーA
前田工繊産資 ノンロット205N Zカラー
ノンロット205N Sカラー
ノンロットブルーノ
吉田製油所 スーパーウッドステイン
ロックペイント ナフタデコール
和信化学工業(和信ペイント) ガードラックPro
ガードラックアクア
ガードラックラテックス
アールジェイ いろはエクステリア
イケダコーポレーション KALDET No.270(カルデット)
TAYA No.279(タヤ)
大阪ガスケミカル キシラデコール
キシラデコールコンゾラン
キシラデコールフォレステージ
キシラデコールフォレステージHS
キシラデコールアクオステージ
大阪塗料工業 ニューボンデンDX
水性ニューボンデン
大谷塗料 VATON プラス
水性バトンプラス
ソワードステイン
OKUTA LOHAS OIL外装用クリア
LOHAS OIL外装用カラー
オスモ&エーデル ウッドステインプロテクター
#701 外装用クリアープラスつや消し
キャピタルペイント ログウッドカラー
ワンダー水性一液型ウッドガード
玄々化学工業 サドリンクラシック
サドリンエナメル
エクステエナメル
レゾナカラー

塗装仕様

JASS18 M-307が必要とされる場面の主なものに、公共建築工事標準仕様書(建築工事編)および 公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)があります。
詳細は以下の仕様書を参照ください。直接該当ページへとリンクしています。

いずれも、屋外の木部の木材保護塗料塗りとしての仕様です。

また、もちろんJASSの下記塗装仕様にも、JASS18 M-307が指定されています。

  • 5節 木質系素地面塗装工事
    木材保護塗料塗り(WP)

主として,建築物外部の木質系素地に対する半透明塗装仕上げを目的とした木材保護塗料塗り
に適用されます。

この二つを文字通り捉えるならば、この規格に該当する一部のエナメル塗料(半透明でない、木を塗りつぶすような塗料)は、公共工事建築仕様書の木材保護塗料塗り(WP)には適合するが、JASS18 木質系素地面塗装工事の木材保護塗料塗り(WP)には適合しない……は言い過ぎですが、やや目的が異なる形になります。

余談①:塗装仕様に入っていなくても

ところで、JIS認証と違い、JASS規格は品質に適合していれば適合していると言えるため、
JIS認証で起きうるような
・新しく高性能な塗料が出ているが規格を取っておらず、規格品はやや古い製品
・ほぼ同じなのに対応版と非対応版がある
などということはありません。

そのため、特に塗装仕様で指定されていない場合にも、JASS18 M-307品を積極的に選択肢に入れてかまいません。
JASS18 M-307に適合していることがすなわち高性能の保証とはなりませんが、ある程度試験等にコストをかけているという意味での信頼性はあり、実際に一般的な外部の木部塗料は適合しているものが非常に多いので、屋外木部塗装の選定には十分目安となる規格です。

ただし、屋内と屋外の使い分けには注意が必要です。
屋外用の木部塗料には、すべてではないですが防虫剤や木材防腐剤など人体に有害な成分が含まれていることが一般的で、例えば屋内の壁に塗装し、その壁を触った手を口に入れた場合など、年齢や体質や体調によっては健康被害の可能性が否定できません。
基本的には非常に微量であり必ず問題が起きるとは限りませんが、わざわざ塗料が分けられているのは理由があります。
特に木部塗料は、カタログ等を見て屋内と屋外を注意して使い分けることが重要です。

余談②:品質規格と各塗装仕様のずれ

種類のところで、「詳しくは後述します」とした内容です。
このJASS18 M-307の品質規格と、公共建築工事標準仕様書の塗装仕様には、実はやや乖離があります。

このJASS18 M-307の品質規格の試験方法では、
塗り付け量は、その製品の製造業者の指定する量とする
と定められています。
しかしながら、公共建築工事標準仕様書の塗装仕様では、塗り付け量が指定されています。

具体的には、下記画像の通りです。

公共建築工事標準仕様書 建築工事編(令和7年版)より抜粋
公的資料のため、著作権法第十三条に該当すると考えていますが、問題があればご指摘ください

この画像の通り、塗付け量は通常B種の合計0.12kg/㎡、A種でも0.16kg/㎡と決められています。

これによりどういうことが起きるかというと、例えばメーカーが
「この塗料は合計0.20kg/㎡塗装するのが標準であり、その塗付け量でJASS18 M-307の品質規格に適合しました」
という製品について、公共建築工事標準仕様書の仕様に従い塗装した場合、

塗料としてJASS18 M-307の品質規格に適合している
・仕様として公共建築工事標準仕様書の仕様を満たしている
・しかし、実際に塗装された量が少ない為塗膜の性能はJASS18 M-307の品質規格水準に満たない可能性がある
ということが起きてしまいます。


そして、JASS18 M-307適合をうたう塗料の中に標準塗布量が0.16kg/㎡より多い製品が実際に存在します。
また、A種B種についても、「A種でJASS18 M-307適合」「A種B種ともにJASS18 M-307適合」とカタログに記載された製品もあるものの、書いていない製品も多く、そのため、塗付け量0.16kg/㎡で試験適合し、実際の工事では0.12kg/㎡を指定されることがあり得ます。

公共建築工事標準仕様書では、
(6) 塗付け量は、平らな面に実際に付着させる塗料の標準量 (一工程当たり) とする。ただし、塗料の標準量は、薄める前のものとする。
とあり、特に製造業者の塗付け量を優先するルールはないようです。
また、11 節 ピグメントステイン塗りなどでは、わざわざ3.塗付け量は、製造所の仕様によるという記載があるため、基本的には公共建築工事標準仕様書で指定された塗付け量が優先されると読み取れます。

公共建築工事標準仕様書に従って塗装する場合、このずれを十分意識していないと本来の性能が発揮できないおそれがあり、注意が必要です。


ところで、
JASS18 木質系素地面塗装工事の木材保護塗料塗り(WP)
ではどうかというと、公共建築工事標準仕様書と塗付け量の数字そのものは同じなのですが、0.06以上などという書き方になっており、木材保護塗料塗り(WP)に指定された塗付け量を上回る分には問題ありません。

あくまで、JASS18 M-307の品質規格と、公共建築工事標準仕様書の塗装仕様だけのずれになります。

しかし、前項に書いたような半透明でないエナメル塗料かつ塗布量が0.16kg/㎡より多い製品は、どちらの仕様にも完全に適しているとは言い難く、板挟みになります。

素人考えとしては、
公共建築工事標準仕様書の木材保護塗料塗り(WP)
JASS18 木質系素地面塗装工事の木材保護塗料塗り(WP)
を同じ内容にすればいいだけでは、と思うのですが、難しいものなのでしょうか。

免責事項

この記事は記者の調査または経験に基づき、その内容には正確を期しておりますが、
購入や採用などの判断を行う場合は、必ず各規格書及び塗装仕様書の原本を確認し、必要に応じてメーカーに確認してください。
また、「この解釈間違ってるよ」「このような理由があるよ」といったことがあれば、
お気軽にお問い合わせフォームからご指摘ください。