
JIS K 5572 フタル酸樹脂エナメル
概要
JIS K 5572は「フタル酸樹脂エナメル」についてのJIS規格で、一般機器,建具などの塗装の上塗りに用いるフタル酸樹脂エナメルについての規定です。
2025年11月時点の最新はJIS K 5572:2010であり、詳細な規格の内容は下記をご確認ください。
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種類
JIS K 5572には、下記のような種類があります
| 種類 | 主な用途 |
|---|---|
| 1種 | 屋内の一般機器,建具など塗装の上塗り |
| 2種 | 屋外の一般機器,建具など塗装の上塗り |
| 3種 | 屋内外の一般機器,建具など塗装で,特に速乾を要する上塗り |
表の通り3種類あり、屋内用、屋外用、屋内外速乾用となっています。
品質項目としては、
・容器の中の状態
・塗装作業性
・表面乾燥性
・重ね塗り適合性
・塗膜の外観
・隠蔽率(ソリッドのみ※)
・耐光性(1種のみ)
・鏡面光沢度
・にじみ(ソリッドのみ※)
・耐屈曲性
・ひっかき硬度
・耐水性
・耐酸性(2種,3種)
・耐揮発油性
・加熱残分
・鉛含有率
・クロム含有率
・促進耐候性(2種,3種)
・屋外暴露耐候性(2種,3種)
・ホルムアルデヒド放散等級
※メタリックや透明色(カラークリヤー)には適用されない。
となっており、ホルムを含めて、1種18項目、2種3種は20項目と、品質項目の多いJIS K 5516やJIS K 5551、JIS K 5659と同じかそれ以上です。
屋内用と屋外用となっている通り、
1種 耐光性
2・3種 耐酸性/促進耐候性/屋外暴露耐候性
というように分かれています。
2種と3種では試験項目は共通していますが、品質基準が違うものがあり、促進耐候性は2種がやや厳しく、表面乾燥性と耐屈曲性は3種が厳しくなっています。
また、やや珍しい項目として、にじみがあります。
これは上塗りに白を塗り重ねた際の、下塗り色のにじみを確認する試験で、JIS K 5531などにも定められています。
また、鉛筆硬度は塗膜性能の試験としては非常に一般的ながら、JIS規格の品質に入るのは少し珍しいように思います。機器等に塗装するため、多少、人が触れたり物がぶつかるなど、接触による影響も想定して、最低限の固さが品質に入っているのかもしれません。
主な製品
JIS K 5572 に該当する主な製品は下記の通りです。
| ハイシルクフォースター100 | ||
|
ネオカナヱスーパー ネオカナヱスーパー4F ネオカナヱスーパークイック ネオカナヱスーパークイックF4 |
ネオカナヱパネルコート F4 | |
| ネオアルキコート | ||
| ネオグリプトン#100 |
この規格に該当する塗料はあまり多くないようです。その理由については、のちほど深堀り記事にて触れます。
ところで、2種の品名にメーカー問わず「ネオ」が共通するのは、偶然でしょうか?
塗装仕様・必要とされる場面
建築工事標準仕様書 JASS18 の塗装仕様などでJIS K 5572が必要とされます。
金属系素地面塗装において
主として,屋外の鉄鋼の一般部,構造用鉄部,鋼製建具,鋼製設備の機器や配管類の美装仕上げに用いるフタル酸樹脂エナメル塗り
として、
フタル酸樹脂エナメル塗り(FE) :1種
と定められています。
JASS18仕様では、屋内塗装は原則として水系塗料を使用する流れがあるため、弱溶剤系であるJIS K 5572は「主として屋外」の塗装仕様と位置づけられています。
しかし、そこで指定されているのはJIS規格上では屋内用である1種です。
屋外での使用仕様に、屋内用規格を指定するのはやや違和感がありますが、FEの目的があくまで『美装仕上げ』であるため、2種・3種(屋外用・速乾用)ほどの耐候性までは要求されず、1種の性能で十分(あるいは許容範囲)と判断されているのかもしれません。
また公共工事建築仕様書の建築工事編では、現在(令和7年版)では、JIS K 5572を指定した仕様はありません。
ただし公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)令和7年版において、
2.2.8.2 塗装
(1) 塗装は、アミノアルキド樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料等の合成樹脂塗料による塗装を行うものとし、塗料は次による。
(ア) アミノアルキド樹脂塗料は、JIS K 5651「アミノアルキド樹脂塗料」とする。
(イ) フタル酸樹脂塗料は、JIS K 5572「フタル酸樹脂エナメル」とする。
(ウ) ポリウレタン樹脂塗料は、JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」とする。
となっており、機械設備の塗装の選択肢に入っています。
深堀り①:エナメルとは何か
JIS K 5572 フタル酸樹脂エナメル
フタル酸樹脂というのは樹脂種別であり、ポリエステル樹脂の一種であるアルキッド樹脂のなかで代表的なもので、一般的な油性塗料が該当します。
では、エナメルとは何でしょうか。
塗料分野では一般的に使用される言葉ですが、JIS K 5500 塗料用語でも特に定義なく使用されており、その意味には幅があります。
本来は釉薬的な仕上げとなる塗料を指し、代表的な特徴としては、
・高光沢
・有色不透明
の二つがあげられます。
JIS K 5572はエナメルの規格であり、高光沢がその品質にありますが、透明色(カラークリヤー)塗料も規格範囲に含まれており、本来より広い意味で使われています。
またJIS K 5675もエナメル系塗料の規格ですが、Low Grossを認める一方、カラークリヤーは(実質的に)含まれません。
他にも、現行ではありませんがJIS K 5573 つや無フタル酸樹脂エナメルという規格も存在しました。
このように、場面によっては隠ぺい性を重視しベタ塗り塗料全てをエナメルといったり、逆に隠ぺい率を重視せず高光沢仕上げの方を示してエナメル調という場合もあります。
ということで、広義にとれば、エナメルは高光沢あるいは高隠ぺい率の塗料、と言えるでしょう。
ただし、それすら当てはまらない場合があります
それはDIY等個人使用の塗料、中でも代表的なのは模型用塗料です。
この分野では慣習的に、
・(水性)アクリル
・(強溶剤)ラッカー
・(弱溶剤)エナメル
という製品分類がなされており、ここでいうエナメルは光沢や着色に依らず塗料種別を指します。
日本ではタミヤの商品名としてエナメルというシリーズがありますが、これもアルキド変性アクリル樹脂塗料のようです。
また、調べた範囲では、海外でもDIYやホビーのアルキド樹脂塗料をEnamel paintと称するようなので、分野によってはこのような呼称も一般的のようです。
ということで、エナメルの指す範囲は非常に広く、同じ塗料分野でも場面によって大きく意味が異なるため、そのことに留意が必要です。
深堀り②:合成樹脂調合ペイントvsフタル酸樹脂エナメル(後編)
JIS K 5516の記事の続きです。
JIS K 5516 合成樹脂調合ペイント
JIS K 5572 フタル酸樹脂エナメル
何が違うのか? どちらが強いのか?
前の記事では、その定義を比較しました。
結果、かなり共通する部分は多いものの、
JIS K 5516は長油タイプ
JIS K 5572は中油タイプ(推測)
というところまで確認しました。
この記事では、目的、塗装仕様に着目して比較していきます。
まず、建築工事標準仕様書 JASS18の金属素地面塗装です。
・合成樹脂調合ペイント塗り(SOP):JIS K5516使用
主として,屋外の鉄鋼の一般部,構造用鉄部,鋼製建具,鋼製設備の機器や配管などに対する合成樹脂ペイント塗り
・フタル酸樹脂エナメル塗り(FE):JIS K 5572使用
主として,屋外の鉄鋼の一般部,構造用鉄部,鋼製建具,鋼製設備の機器や配管類の美装仕上げに用いるフタル酸樹脂エナメル塗り
となっており、その違いは「美装仕上げ」のみです。
また、公共工事改修建築仕様書の建築工事編においては、
5節 合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)
7.5.1 一般事項
この節は、木部、鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面で既存塗膜が油性調合ペイント、合成樹脂調合ペイント及びフタル酸樹脂エナメルの塗替えの場合並びに合成樹脂調合ペイントを新規に塗る場合に適用する。
となっており、
旧塗膜:フタル酸樹脂エナメル
塗替え:合成樹脂調合ペイント
という位置づけになっています。
過去の公共工事建築仕様書を確認すると、
平成19年度(2007):フタル酸樹脂エナメル塗り(FE) 有
平成28年度(2016):フタル酸樹脂エナメル塗り(FE) 無
となっており、その間に消えたものと思われます。
また、平成19年度版を見ても、内部の木部または金属部に用いるという点で共通しており、使い分けは示されていません。
これらの状況から、
JIS K 5572は表面乾燥に優れており美装仕上げというメリットでFEが選択されることはあるものの、SOPとの差異はそれほど大きくなく、徐々にJIS K 5572の出番は減っていっている。
という状況かと思います。
メーカーが少ない理由もおそらくここにあり、
乾燥性という特徴があり、また公的な塗装仕様に残っている以上、まだ現役として必要とされている一方で、塗替えではSOPなどが使われるようになり、新しく認証を取得するようなメーカーがないということなのかもしれません。
免責事項
この記事は記者の調査または経験に基づき、その内容には正確を期しておりますが、
購入や採用などの判断を行う場合は、必ず各規格書及び塗装仕様書の原本を確認してください。
また、「ここ間違ってるよ」「このような塗装仕様でも使うよ」といったことがあれば、
お気軽にお問い合わせフォームからご指摘ください。
