概要
JIS K 5660は「つや有合成樹脂エマルションペイント」についてのJIS規格で、建築物及び構造物の,内外部のコンクリート,セメントモルタル面などの塗装に用いる,つや有合成樹脂エマルションペイントについての規定です。
2025年8月時点の最新はJIS K 5660:2008であり、詳細な規格の内容は下記をご確認ください。
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種類
JIS K 5660には、種類・区分はありません。
一種類のみです。
主となる樹脂種など主原料についても具体的には指定しておらず、
「ただし,塗料には,ユリア樹脂,メラミン樹脂,ユリア・メラミン共縮合樹脂,フェノール樹脂,レゾルシノール樹脂
及びホルムアルデヒド系防腐剤のいずれをも含まないものとする。」
のように、ブラックリスト方式で規定されています。
主な製品
JIS K 5660 に該当する主な製品は下記の通りです。
塗装仕様・必要とされる場面
主に、公共工事建築仕様書のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り (EP-G)
でJIS K 5660が必要とされます。
詳細は以下の仕様書を参照ください。直接該当ページへとリンクしています。
- 公共建築工事標準仕様書 建築工事編(令和7年版)
- 公共建築改修工事標準仕様書 建築工事編(令和7年版)
また、建築工事標準仕様書 JASS18 塗装工事
つや有合成樹脂エマルションペイント塗り(EP-G)
においても指定されています。
建築工事標準仕様書・同解説: JASS 18 2013 (18) (Amazonアフィリエイトリンク)
「公共建築(改修)工事標準仕様書」と、「建築工事標準仕様書 JASS18 塗装工事」の該当仕様については、
かなり似通った部分はあるものの、細かく見ていくと工程数や塗料の指定などに違いがあるため、
どちらを指定されているかで区別する必要があります。
余談:塗料やそのJISにおける「エマルション」について
「つや有合成樹脂エマルションペイント」という用語について分解してみると、
・つや有は明確です。JIS K 5660の品質にも鏡面光沢度(60度)が70以上と規定されており、
要は光沢のある塗料です。感覚として、鏡面光沢度(60度)が70以上は結構テカテカです。
・合成樹脂は、一般的にはプラスチックと同義であり、JIS K 6900では高分子物質を原料とした固体を指します。塗料分野では、塗料液中に分散した高分子ポリマーを指します。
・エマルションは、一般的に乳濁液と言われるもので、液体溶媒に混ざり合わない液体が分散されている状態を指します。身近な物ではマヨネーズがこれに当たります。
そして、固体が液体に分散されたものは懸濁液(サスペンション)、また粒子径によってコロイドといい、それらすべてを含めてディスパージョンと言います。
例えば牛乳は、主に脂肪球エマルションであると同時にカゼインコロイドでもある複合的なディスパージョンと言えるでしょう。
なおエマルションはカタカナだとエマルジョンと表記することが一般的ですが、同じ意味です。
・ペイントは、塗料を指します。そのまんまですね。
さて、こう分解すると何かおかしいことに気づくと思います。
そうです。
合成樹脂、塗料の高分子ポリマー(基本的に固体)
エマルション(液体に液体を分散したもの)
の定義が矛盾しています。
とはいえ、JISの名称そのものが矛盾しているわけでは当然なく、
実は「エマルションペイント」という言葉が個別に定義されています。
下記にJIS K 5500 塗料用語 から抜粋、引用します。
エマルションペイント
水中に分散した有機バインダーをビヒクルとして作った塗料。
厳密には,ボイル油,油ワニス,樹脂などを水中に乳化して作った液状物をビヒクルとして用いた塗料をエマルションペイント,乳化重合で得た合成樹脂エマルション(ラテックス)をビヒクルとして作った塗料をラテックスペイント(JISでは合成樹脂エマルションペイントという。)と区別する。
これを整理・要約すると、こうなります
エマルションペイント :概ね水性塗料のこと。ラテックスペイントを含む。
エマルションペイント(厳密):エマルションを主体とする水性塗料。
ラテックスペイント :乳化重合で得たラテックスを主体とする水性塗料。
(=合成樹脂エマルションペイント)
つまり、厳密にはエマルション(液体が液体に分散しているもの)でないが、乳化(エマルション化)重合で作られたラテックス(固体ポリマーがコロイド状に水に分散しているポリマーディスパージョン)を合成樹脂エマルションと定義しています。
これは想像になりますが、これはJISが定義したというより、おそらく通称として使われていた用語を、JSA等が検討の上JISで定義したのではないかと思います。
これは塗料製品に限らず原料樹脂等でも同じであり、水系ポリマーディスパーションのことをエマルションと呼ぶことが多いです。ただし、メーカーによっては意図をもって呼び分けている場合もあります。
また、これは英語圏でも同様のようで、emulsion paintはemulsionでないlatexを含めて使うことが多いようです。
結論
塗料用語としてのエマルションは、厳密にはエマルションでないものが多い。
免責事項
この記事は記者の調査または経験に基づき、その内容には正確を期しておりますが、
購入や採用などの判断を行う場合は、必ず各規格書及び塗装仕様書の原本を確認してください。
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